怒りのコントロール
2015年のアカデミー賞最優秀作品は「Birdman」に決まりましたが、話題になった作品に「American Sniper」がありました。911後のイラクで伝説になった射撃手の話です。
主人公が飛抜けたスキルで敵兵そして一般人を撃っていく様子が頻繁に出てきます。狙いを定め、不可能な距離から命中させることに一種の高揚感がもたらされます。射撃の際の音響は、観客のボルテージを嫌が応にも上げていくようです。
敵が自国に危害をもたらしたことに対する自分の行為について、主人公は疑いを微塵ももっていません(映画は実話に基づいており、実際インタビューに答えて「悪事をした敵を殺したことに全く後悔はない」と語っています)。軍人としての義務感と同時に、 敵に対する怒りが如実に伺えます。
いつしか観客も、射撃のターゲットになる敵に対して同じ怒りを持っていることに気づきます。恐ろしいことに、命中すると爽快感が伴います。怒りはどんどん高まり、 敵を射止めた際の高揚感に拍車がかかります。
映画のエンディングロールは短く、音楽もほとんどありません。観客が沈鬱な表情で劇場を後にしているのが印象的でした。
もちろんこの映画で国威発揚を感じ礼讃する人々もいるわけですが、多くの方が何とも言えない後味をもったのは幸いでした。余談ですが、主人公の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の兆候が描かれており、この映画自体は決して軍事行為を賞賛しているわけではありません。
途中で主人公の妻が、「あなたはどこで終わるべきかわからないでいるでしょう」と言っていることも印象的でした。
911直後、コネチカット州にいた私は、優秀な教授陣のなかに「報復をすぐにすべきだ」「第三次世界大戦が始まるぞ」といきり立つ人々がいたのを思い出します。
怒りは人間に必要な感情なのでしょうか。
いずれにせよ、これほど扱いにくい感情はないと思います。先の兵士は、彼なりの正義や母国愛という理由があるのでしょうが、どこかの時点で怒りという感情がそれらを凌駕して彼を突き動かします。それを収束させることは不可能かのようです。
半世紀以上の間、会社の上司への怒りを持ち続けた人もいます。その方の人生は何だったのでしょうか。おそらく当の上司は憶えてもいないことなのに。
ダライラマは、1959年にチベットを脱出しています。その時中国は、チベット内で大虐殺破壊を行ったことが知られています。
ダライラマほどの人間でも怒りを感じるのでしょうか。
答えはイエスです。「チベットわが祖国」という著書にあるように、虐殺を首謀した中国人たちへの怒りを表しています。彼も決して「仏」ではないわけです。と同時に「善良な中国人も知っている」と、短絡的な怒りを持ちません。そして何より、暴力という、怒りとの最悪のブレンドを彼は拒絶しています。
怒りというのは複雑な、そして最も扱いにくい感情の一つです。もし怒りがあなたをコントロールしているようでしたら、専門家のドアを叩いて下さい。
簡潔に幾つかのアドバイスです。
《怒りのコントロール》
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すぐに感情に反応しない。
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ゆとりをもつ。
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相手への期待値を下げる。
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見方を広げる。
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怒りのパターンを解析する。
「怒ることに遅い人は力ある者に勝り、自分の霊を制している人は都市を攻め取る者に勝る」。